大阪高等裁判所 昭和44年(う)8号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕所論にかんがみ原判決の当否を検討するに、原判決挙示の各証拠および当審における検証調書、証人古川純子、同影山雅昭、同磯貝秀に対する各尋問調書ならびに被告人の当公判廷における供述を総合すると、被告人は、昭和四三年五月八日午後三時三〇分頃、車両輸送用の普通貨物自動車(車幅2.45メートル、車長11.5メートル)を運転し、片側車道が四区分通行帯に区分された第二阪神国道東行車道の第二通行帯(第二通行帯は他の通行帯の約二倍)の幅員を時速約四〇キロメートルで東進し、西宮市本町四番七号先の交差点左方の幅員八メートルの南北に通ずる市道幹一六号線に左折するため、同交差点西方約三〇メートルの地点から左折の方向指示器を出し、時速約二〇キロメートルに減速して交差点内にはいり、第二通行帯から左折しようとしたのであるが、これを直進車であると考えて、第一通行帯(被告人運転の自動車の左側通行帯)を時速約四〇キロメートルで交差点に向つて東進して来る古川純子運転の軽四輪自動車に対する確認を十分にしないままに、ハンドルを左に切つて左折にかかつたため、交差点において、自車前部バンバーの左端付近を同車の右側後部に接触させ、同車を横転させながら交差点東側の歩道ぎわの横断歩道上にさかさまに転覆させ、原判示のように、古川純子に対し加療約一〇日を要する頭部打撲、頸椎捻挫、同乗していた同女の二男古川浩延(当三歳)に対し加療約五日を要する頭部外傷を負わせたことおよび被告人が左折しようとした際、左方市道の南行停止線付近に南行車両が信号待ちで停止していたこと、被告人の自動車は車長が長く、ホイルベース(前輪車軸から後輪車軸までの長さ)が六メートルもあつて、市道南行停止線付近に信号待ちの車両がある場合に、第一通行帯から左折するときは、これに接触するから左折することは困難であるが、車体右側を第二通行帯に入れ、両通行帯にまたがつて左折するときは、これに接触することなく左折し得ることを認めることができる。そして、右認定のような場合、車長の長い自動車の運転者である被告人としては、左折しようとする交差点の三〇メートル手前で左折の方向指示器を出すは勿論、道路交通法三四条一項の趣旨に従い、後続車両に対して左折することをよく認識させるため、あらかじめ左側の第一通行帯にはいつて進行し、交差点直近において車体右側を第二通行帯に入れ、両通行帯にまたがる態勢で徐行して交差点内にはいり、第一通行帯を後続してくる車両の有無を確かめ、その交通の安全を確認したうえで、左折進行すべき業務上の注意業務があつたといわなければならない。しかるに、被告人は、交差点西方約三〇メートルの地点で左折の方向指示器を出しただけで、そのまま第二通行帯を進行し、時速を約二〇キロメートルに減速して交差点内にはいり、第一通行帯を東進してくる古川純子運転の自動車に対する確認を怠つて、漫然ハンドルを左に切つて左折を開始したため、前記のように接触事故を起したというのであるから、左折の際の前記注意義務を尽したものということはできない。かりに、本件の場合、被告人が供述するように第二通行帯からでないと左折することができないものとしても、第一通行帯を直進する車両の運転者において、第二通行帯を進行する車両は交差点を直進するものと考えることが十分予想されるから、被告人としては、第一通行帯を交差点に向つて進行してくる車両に対して特段の注意を払い、その交通の安全を十分確認したうえで、左折を開始すべき注意義務のあることは、いうまでもないところであつて、前記認定の事実に徴して、被告人が右注意義務を怠つたことは明らかである。そうすると、被告人は、左折に際しての安全確認義務を怠つた点について過失があつたというべきである。(竹沢喜代治 尾鼻輝次 知識融治)